小野光子(音楽学者)

音楽学者。国立音楽大学大学院音楽学学科修了。著書に『武満徹 ある作曲家の肖像』(音楽之友社、2016年、ミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞)。訳書にピーター・バート著『武満徹の音楽』(同、2006年)、ルチアナ・ガリアーノ著『湯浅譲二の音楽』(アルテスパブリッシング、2019年)。編著に『武満徹全集』(小学館、2002〜04年)、『林光の音楽』(同、2008年)など。

武満徹がピアノに託した歌 —— その実験精神の内奥へ。誠実に高みを目指す彼女に期待!

連載第1回目(全14回掲載予定)

深見まどかさんが2026年に武満作品によるコンサートを開くという。武満徹が亡くなったのは1996年で没後30年の記念イヤーだからオール・タケミツ・プログラムと思いきや、そこにモンポウとショパンが入っている。面白い!

まどかさん(と呼ばせていただく)は勉強家で挑戦者だ。コロナ禍でも活動の灯を消すことはなかった。ラヴェルの《ピアノ協奏曲》の演奏に際しては演奏者に解釈の選択肢が与えられた新版を、わざわざ取り上げた。また、フランスと日本を行き来する活動の中で現代の作曲家や演奏家との交友も深めている。経歴をよく見たら、古楽器も勉強している。作品が創作された当時の作曲家がイメージした音色に触れたいのだろう。

現代の作曲家にたいしては、まどかさんは積極的にコンタクトをとる。そして作品について直に話を聞き、新作の委嘱も行っている。古典だけでなく同時代から刺激を受け、自身から湧き出る探究心に基づいて視野と見識を広げ、彼女は表現を深めてゆくのだ。だからだろう、筆者が2024年10月に東京オペラシティの「B→C」で演奏を聴いた時、すでに自分の世界をもっている人だと感じた。

「B→C」といえば、アンコールでまどかさんは西村朗さんの《星の鏡》を弾いた。このときの印象は忘れられない。鮮烈だった。プログラムでバッハ、ドビュッシー、ラヴェルの他、フランスの現代作曲家ぺパン、アカール、エルサン、アタの作品を演奏した後のことだ。西村さんの作品では明らかに音色を変えていた。硬質で金属的な音色で、見事に作品の真髄を捉えていると感じた。

彼女がCD『間の礼賛Eloge de Ma – Résonance』を2024年に制作し、日本とフランスの作曲家による作品のレゾナンス=余韻に着目したのも、“日本”色を出したいという異国趣味のような(“間”というと、どうしてもそう思ってしまう)ものではなく、彼女自身が表現したい世界を深めたいがゆえのことだったのだと思う。

そして――

満をじしてと言おうか。先のCDで武満の作品はメシアンに捧げられた《雨の樹 素描II》だけが収録されていたが、まどかさんは2026年4月5日に催されるコンサートで武満のピアノ独奏曲全曲を視野に入れたプログラムを組んだ。

誠実に一歩一歩、音楽と向き合う彼女が奏でるピアノを聴くのが楽しみでならない。

2025年11月現在、下記のプログラムが公表されている。

【第1部:Prelude to Takemitsu ~武満に影響を与えた作品】

モンポウ:前奏曲  (前奏曲集より)
ショパン:24の前奏曲 Op.28
ドビュッシー:前奏曲集より

【第2部:武満徹ピアノ作品初期~中期 / 1940~1970年代)】

ロマンス(1948)
サーカスにて(1952)[雑誌美術手帖付録・未完作品]
遮られない休息(1952)
ピアノ・ディスタンス(1961)
ピアニストのためのコロナ(1962)
フォー・アウェイ(1973)
こどものためのピアノ小品(1978)

【第3部:武満徹ピアノ作品中期~後期(1979~1990年代)】

閉じた眼-瀧口修造を追憶して-(1979)
雨の樹 素描(1982)
閉じた眼Ⅱ(1988)
リタニ-マイケル・ヴァイナーの追憶に-(1950/89)
雨の樹素描 II-オリヴィエ・メシアンの追憶に-(1992)