連載第10回目(全14回掲載予定)
《ピアニストのためのコロナ》は1962年2月23日に草月会館ホールで開かれた「高橋悠治ピアノ・リサイタル2」で悠治さんと一柳慧さんにより初演された。ピアノは一人でも複数でもよいとされている。楽譜はデザイナーの杉浦康平さんとの共作による、いわゆる図形楽譜。
青、赤、黄、灰色、白の5色のシートがあり、それぞれ同心円が描かれている。武満にとって、円もしくは環は重要なキーワード。作品も簡略化したら循環をなすABA形式で書かれているものが多い。武満はしばしば時間について、西洋は直線的、日本は巡る季節があるように時間を循環するもの、円環で繰り返すものとして捉えると語る。
杉浦さんは“切り込み”がなければ作品として成立しない、図形の“切り込み”が重要だと、2021年12月15日に私がインタビューした際に強調された。
《ピアニストのためのコロナ》も切り込みによって5色の断片が1つに組み合わさる。奏者は色と形に感応しながら即興で演奏する。
灰色ではなく黒だと陰陽五行説における5色が揃う。印刷の都合で線が読めるよう灰色にしたのかもしれない。皆既日食により生じるコロナを想起させつつ森羅万象を念頭においた作品といえよう。武満はこの作品を「あるべき秩序の根」と呼んだ。
「この曲を演奏するピアニストは特に色と形にセンシティヴであってほしい」と武満は記し、青、赤、黄色、灰色、白はそれぞれヴァイブレーション、イントネーション、強弱、表情、対話についての訓練であるとする。

武満は《ピアニストのためのコロナ》を初演後の4月に東京画廊で一柳慧、黛敏郎、高橋悠治と企画した「四人の作曲 グラフィック楽譜展」に出品した。そのときカタログと称して4人はそれぞれ作品を収めている。武満のはブルーノ・ムナーリと杉浦との共作(豪華メンバー!)で、これも環がモチーフ。丸く切り抜かれた円が一本の糸によってつながっている。指示書はないので楽譜のつもりではなく、絵も嗜む武満さんの余興の一つだと思う。この作品(カタログ)は今年(2026年)8月まで東京都現代美術館の図書館に展示されている。興味のある方は足を運んでみてはいかが?
©2026 小野光子
参考文献
杉浦康平「見る音楽」『芸術新潮』1962年8月号[13(8) 152] pp.112-113